2018年1月22日月曜日

否定と肯定

Denial
ホロコーストはなかったか? 実話の裁判の映画化。


監督 ミック・ジャクソン


出演 レイチェル・ワイズ、ティモシー・スポール、トム・ウィルキンソン
12/8から公開中
●ストーリー
アメリカの歴史学者デボラ・E・リップシュタットの講演中、
ホロコースト否定論者のデイヴィッド・アービングが現れ、
「嘘を言っている」と絡んでくる。
リップシュタットがその著作物で、「ホロコーストはなかった」と
主張するアービングを批判していたからだ。
相手にしないリップシュタットに対しアービングは、
今度はイギリスで彼女と本の版元であるペンギンブックスを名誉毀損で訴える。
イギリスに渡り弁護士団と打ち合わせをするリップシュタットだが、
名誉毀損に関しては、逆に訴えられた側が相手の間違いを証明しなければならないという、英米の裁判の違いに驚く。
そして世間が注目する裁判が始まった。。

●レビュー
これは1996年に実際に起きた 
「アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件」
訴訟と裁判の映画化だ。
興味ある人は、この事件はwikiにも載っているので、読んでみるといい。
当時、こんな裁判があったか記憶にないが、欧米では話題になったらしい。
何せ現代のイギリスの王立裁判所で、ホロコーストはあったかないかの証明をし、裁判で決着をつけるのだから。
まあ、「〜はなかった」という否定論者は、昔から世界中にいる。
これは、まだ歴史的な検証が済んでいないものは別として、
もう定説となっているものを、歴史資料から自分に
都合がいいところだけ抜粋して、自分の主義主張に合わせているだけだ

本作の主人公である歴史学者リップシュタットは、
そういう輩をそもそも“学者”として認めておらず、
アービングが仕掛けてくる“討論”にも乗らない。
アービングにすれば、結果ではなく、きちんとした学者と討論できたことで、
すでに彼の“勝ち”になってしまうからだ。
裁判も勝ち負けより、世間に注目されれば
「もしかして彼の言うことは本当かも」という人が必ず出てくる。
今まで無名の「トンデモ学者」だったのが、「テレビに出た有名人」になった時点で、
その試みは成功しているのだ。

「ホロコーストはなかった」何て信じる人はいるのか?
と思うだろうが、いる。
ヒトラーをするネオナチだけでなく、
日本でも1995年に「マルコポーロ事件」があった
(「ガス室はなかった」とする記事を掲載し、廃刊に追い込まれた)。
問題は、トンデモ歴史論を展開する人たちが、「表現の自由」を盾に使うことだ。
それを盾に取られてしまうと、識者たちの反論の筆が鈍くなることを知っているからだ。
映画を見ていて思うのは、「表現の自由」は大事だが、

それを野放しにすると、デマカセ情報や無責任の中傷情報も広がり
鵜呑みにした人たちが偏見や憎悪を持ってしまう危険性があるということ。
現に今のネット社会がそうだろう。

(ヤフコメでも、ヘイト発言は表現の自由と勘違いしている輩が多い)

あとこの映画で勉強になったのは、英米の裁判のシステムの違い。
「法廷もの」は映画では一つのジャンルにもなっているが、

今まで作られてきたのはアメリカ映画がほとんど。
本作では、アメリカ人がイギリスの法廷に出るということで、

日本人にもわかりやすくイギリスの裁判のシステムを解説してくれる。
で、難しいのは、もしアービングが本当に

「ホロコーストはなかった」と信じきっていた場合、
彼は嘘をついていないので「中傷にはならない」のではないかという
問題も出てくること。
なので、「知ってて、都合のいいところだけ抜き出した」と、
訴えられた側が証明しなきゃならないのだ。
うーん、面倒。

監督は懐かしや『ボディガード』のミック・ジャクソン。
最近見ないと思っていたら、テレビに戻り、
ドキュメンタリーの演出をしていたらしい。
なので法廷劇だが、きちんと最後はエンタメ映画としても
盛り上がれるような演出もされている。
★★★☆