2017年7月26日水曜日

ローサは密告された

フィリピン・マニラのスラム街。小さな雑貨店のを営むローサ夫婦は、麻薬の密売を密告され逮捕されてしまう。ローサ一家は、無法で腐敗した警察に立ち向かう。

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MA’ROSA
2016年/フィリピン

監督:ブリランテ・メンドーサ
脚本:トロイ・エスビリトゥ
出演:ジャクリン・ホセ、フリオ・ディアス、フィリックス・ロコ
配給:ビターズ・エンド
上映時間:110分
公開:2017年7月29日(土)、シアター イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

●ストーリー  

 フィリピン・マニラ、スラム街の一角。ローサ(ジャクリン・ホセ)は夫ネストール(フリオ・ディアス)と小さな雑貨店を経営している。子どもは4人。生活は貧しく、店では少量の麻薬を扱い、それが一家の生活の支えになっていた。
 ある雨の晩、ローサ夫婦は、麻薬密売の罪で警察に逮捕されてしまう。連行された警察署は、密売人の密告要求、法外な保釈金の請求、暴力、横領と無法地帯そのものだ。4人の子どもは、両親の保釈のために懸命に奔走する‥。


●レビュー 

 5人に1人が貧困状態だと言われ、麻薬に関わる犯罪が絶えないフィリピンのスラム街。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の就任後の取り締まり強化で、麻薬に関わる者が大量に逮捕、超法規的な殺害も行われていることはニュースにもなっている。この物語は、そうしたスラム街を舞台に、麻薬を売っていた罪で警察に逮捕されたローサ夫婦とその釈放に奔走する子どもたちの姿、警察にはびこる腐敗が描かれている。

 主人公のローサは、夫とともに小さな雑貨店を営みながら、4人の子どもたちとスラム街の一角で暮らしている。生活にゆとりはなく、麻薬を仕入れて小分けして売っている。子どもたちも各々ギリギリの日々。
 まず、登場する人物や彼らの生活の様がとても自然なことに驚かされる。その後、麻薬の密売を密告され、夫婦は逮捕されるのだが、法外な保釈金の要求を横領、押収した麻薬を横流し、恐喝に暴力、連行され先の警察のにわかに信じられないような腐敗の有り様もまた、異様なほどのリアリティに満ちている。スラム街での撮影、夜もライトを使わず、手持ちカメラが俳優を捉えている。フィリピンのスラム街で起きた生活の断面を描き出すため、あえてドキュメンタリーのように撮影方法。さらに、撮影は時系列で進み、セリフは撮影現場で指示され、俳優たちはその場に応じて動いたという。出演者たちがそれぞれの役回りを自然と深めていったことがうかがえる。こうしたメンドーサ監督の手腕が、この作品への興味をよりいっそう深くしている。

 そして特筆すべきは、ローサを演じたジャクリン・ホセである。したたかに生きるスラム街の母親を見事に体現。カンヌ国際映画祭で高い評価を受け、主演女優賞を受賞している。視点は彼女に合わせられ、逮捕されてからの一晩の出来事が、彼女の目から見た形で語られるように編集されている。
 ローサの家族はごく普通の家族なのだろうが、生き残るためには何でもする、何でもしなければならない無法地帯にいる。ラストシーンのローサの視線が、倫理や道徳を踏み外ことが当然のようにある難しいフィリピン社会の現実を私たちに伝えてくれる。★★★加賀美まき

第69回 カンヌ国際映画祭 主演女優賞(ジャクリン・ホセ)受賞
第89回 アカデミー賞 外国映画賞 フィリピン代表
第54回 ヒホン国際映画祭 監督賞(ブリランテ・メンドーサ)受賞