2017年1月25日水曜日

太陽の下で —真実の北朝鮮—

Under the Sun

2015年

人間が全体のパーツのひとつとして生きるはどういうことか?


監督:ヴィタリー・マンスキー
出演:リ・ジンミ
配給:ハーク
公開:121日よりシネマート新宿にて公開中
公式HPtaiyono-shitade.com
レビュー
すでに私たちは、ニュース映像や断片的な情報で、
北朝鮮が前時代的な全体国家であることを知っている。
ただし、映像は基本的には国営放送が流すものなので、
管理されていない北朝鮮の姿を見ることはできない。
ではこのドキュメンタリーはどうなのか。

ロシアのドキュメンタリー作家であるマンスキー監督は、
2年にわたる交渉の結果、ようやく「北朝鮮に住む庶民の日常風景に密着取材する」許可 
をとる。
ドキュメンタリーの主役となるのは、
少年団にいる8才の少女ジンミ
金日成の誕生祭である「太陽節」で披露する踊りの練習に余念がない、
そんな姿を映し出すはずだった。
ところが、現地に着いてみるとシナリオができていて、
  北朝鮮側の監督OKを出すまで、ジンミや両親、
カメラに映る人々は何度でも演技のやり直しをさせられる。
カメラに映る会話は、すべてセリフがあり、
演出されたものだった。
しかも撮影されたテープは、すべてその日のうちに検閲を受ける。
そこでマンスキー監督は隠し撮りを決行する。
リハーサルや休憩時間の段階から録画スイッチを押したカメラを放置し、
映像を密かに持ち出していたのだ。
こうしてできあがったのが、このドキュメンタリーだ。

撮影が始まり、北朝鮮に渡ったマンスキー監督がまず驚いたのは、
ジンミの両親の職業が変えられていたこと。
北朝鮮では職業選択の自由はなく、全員公務員のようなものだから、
映画に合わせてその間に変えられていたのだ。
そしてジンミ一家が住む住宅には、生活感がない。
どうやら、本当は別のところに家があり、
そこから通っているのがアリアリなのだ。
ケガをした友達をみんなで見舞いに行くシーンを
何度もやり直すところがあり、  
「北朝鮮ではこれがドキュメンタリーなのか」と驚くだろう。
また、授業風景では思想統一のために何を教えているかもわかり、
まるでディストピアSF映画だ。

ラスト、ジンミちゃんに自分の言葉で話すように監督が問いかけると、
意表を突かれて困ってしまうジンミちゃん。  
ジンミちゃんが考えて出す言葉が、悲しくも恐ろしい
 
言いたいことも言えないし、やりたいこともできずに
一生を終えていく人生。 全体の中のパーツとしてしか人生を過ごせない、
それはまるでアリの一生だ。
そこには自分の意思というものがない
そして監視されている人たちだけでなく、
監視している者もまた誰かに監視されていている。

でもねえ、これを「かわいそうな人達」とひと事だと
思って見るのは、まちがいだ。
このディストピアは今もこの瞬間に存在するし、
その世界と私たちの世界は無縁ではない。
そして私たちの世界も、条件さえ揃えば、
すぐにこんな世界に変わることもあるだろう。
日本にだって、本人はまったく意識していないが
「服従」に居心地良さを感じている人たちがいる。
受け売りだけで、自分の言葉で語っていない人たちも。
私たちの世界が、50年後にこうなっていないとは限らないのだ。
★★★前原利行)
 
映画の背景

・監督は両親が生きたスターリン時代のソ連がどうだったか、また自分が若かった頃のソ連も知っているので、それが今も続いている北朝鮮に興味を持ったという。

・気になるのは、この映画を北朝鮮政府はどうみているのかということだが、プレスによればやはりロシア政府に上映中止を要求したとのこと。それにより、ロシア政府も公の映画館では上映禁止にし、この映画を非難した。監督は、現在ロシアを離れてラトビアに住んでいるという。

・映画を見たら、その後のジンミちゃんも気になるが、公式のアナウンスメントはない。