2016年5月30日月曜日

裸足の季節

自由を奪われた5人姉妹。未来を切り拓くための、それぞれの反逆の物語


MUSTANG 
 
2015年/フランス、トルコ、ドイツ

監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴァン
脚本:デニズ・ガムゼ・エルギュヴァン、アリス・ウィノクール
出演:ギュネシ・シェンソイ、ドア・ドゥウシル、トゥーバ・スングルオウル、エリット・イシジャン、イライダ・アクドアン
配給:ビタース・エンド
上映時間:94分
公開:2016年6月11日(土)、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
HP:http://bitters.co.jp/hadashi/

●ストーリー
 イスタンブールから1000キロ離れた田舎町に住むラーレは、5人姉妹の末っ子。10年前に両親を亡くしてから、祖母と叔父の住む家で美しい姉たちと一緒に暮らしている。
 学校帰りのある日、姉妹は男子生徒と一緒に海に入り、騎馬戦をしてはしゃいで遊んでいた。それを見た隣人が告げ口するや、祖母はふしだらだと娘たち折檻、叔父は病院で処女検査受けさせる。純潔が証明されると、姉妹は外出を禁じられ、花嫁修行のための退屈な日々を過ごすことになってしまう。
 そんな日々の中、あるサッカーの試合が、女性客のみ観戦の試合になる。大のサッカーファンのラーレは、姉妹で観戦しようと外出を試みる・・。

●レビュー
 本作の舞台は、トルコの黒海沿いの田舎町。美しい5人姉妹が、キラキラと光が反射する海に制服のまま飛び込み、男子生徒と騎馬戦ではしゃぐシーンから物語は始まる。それは、明るく自由な情景に見えるのだが、古い慣習と封建的な思想に縛られた、男性優先の世界では、全くもって許されないことなのだと観客は知らされる。肩車をしたというだけで、処女検査を強いられ、学校はもちろん一切の外出を禁じられ、不埒とされるものは洋服も携帯電も全て処分されてしまう。全ての自由を奪われた少女たちには、親が決めた相手に嫁ぐしか道はなくなってしまう。

 こうした重い題材を扱いながら、この作品では、慣習に縛られた世界に抗う姉妹の姿が瑞々しいタッチで描かれている。それは、女性監督の目線で捉えているところが大きいのだと思う。重い題材をシリアスになり過ぎず、しっかりとした問題意識をもって捉えているのは、監督自身が、女性の地位や社会的な問題を出身地のトルコを離れ、外の世界から見ているからだろう。物語は、卓越した構成力で紡がれ、劇中、滑稽とのもれる男性たちの行動や年配の女性たちも男性に反抗する姿も盛り込まれている。

 そして、この作品最大の魅力は、監督の意図を見事に体現した美しい5人のヒロインたちにあると思う。それぞれが魅力的な姿を見せてくれるのだが、特に、次々と結婚させられる姉たちを見ながらも、最後まで希望を捨てずに自由を求めて行動する末妹のラーレが素晴らしい。ラーレ役の含め、ほとんど少女たちが演技経験がないということに驚かされる。

 本作は第68回カンヌ国際映画祭でヨーロッパ・シネマ・レーベル賞を獲得。デニズ・ガムぜ・エルギュヴェンは初監督ながら、アカデミー賞外国映画賞にノミネートをされた。トルコの海、緑あふれる山々の姿などを盛り込んだ、美しい映像も見どころ。(★★★★)